今年初の登山。ソロではなかったので火器にアルコールストーブを選び、お昼ご飯のカップ麺のお湯を沸かしました。
もし、ソロだったら
- 問題の起きにくいガスバーナーにする
- アルコールストーブをメイン火器として考えるとしても、サブにガスバーナーを持っていく
- 火を使わない食事にする
など、アルコールストーブ単体の運用ではなく、何かしらバックアップを考えると思います。しかし、複数人で登るのであれば、仮にお湯が作れなくても誰かが必ずガスバーナーを持ってきてるだろう、という他力本願な考えで、アルコールストーブだけを持って行ったんでした。
さておいて、周りでガスバーナーが轟々と音を立てる中、やっぱり「アルコールストーブは静かでイイ!!」などと最初は嬉しがっていたのですが、
結果的には、ちょっと火力に不満を感じてしまったんですよね。
一応、VARGOの「ヘキサゴンウッドストーブ チタン T-415」を風防兼ゴトクとして使い、アルコールストーブにはずっと使ってるtrangia「アルコールバーナー TR-B25」の組み合わせ。
ぶっちゃけ悪くない。悪くないんだよ。これまで一度も問題を起こしてないし、まず間違いのない組み合わせのひとつと断言します。
ただ、パーティのほか全員がガスバーナーだったこともあり、皆さんがとっととお湯を沸かして食事を進める中、ひとりジリジリとお湯が沸くのを待つ時間が、ほんのちょっと苦痛に感じたんでした。
ということで、蓋がないというだけの理由で避けていたアルコールストーブ、EVERNEWの「Tiアルコールストーブ EBY254」と、この「Tiアルコールストーブ」の燃焼効率をさらに上げてくれるという風防兼ゴトク「アルコールストーブ用スタンドDX EBY257」を導入してみました。
正確には、別々に購入するよりも安い、これら2つのセット「アルコールストーブスタンドDXセット EBY255」を購入。
何度か使ってみたので、…というより、最近は火器としてほぼこれしか使ってないくらい気に入ってるので、レビューしてみたいと思います。
アルコールストーブスタンドDXセット
パッケージ
サイトの商品名としては「アルコールストーブスタンドDXセット」なのですが、パッケージには「TiアルコールストーブスタンドDXセット」とTiの文字が入ってます。
パッケージの表記は86グラムで、「Tiアルコールストーブ」と「アルコールストーブ用スタンドDX」がセットになっている旨、記載されてますね。
チタン製ということで、最初に箱を持ったときに、とにかくめちゃくちゃ軽いという印象を持ちました。
内容物
こんな感じで、重ねた状態で梱包箱に入ってます。
これがいちばんコンパクトな形態であり、収納状態なので、「この形を覚えなければ!!」と少し緊張しますが、どうやってもこの形にしかならないようになっているので、すぐに慣れると思います。
分解するとこんな感じ。
左からパワープレート、下部スタンド、上部スタンド、Tiアルコールストーブです。
いずれも工作精度が高くて、例えばスタンドの方はチタンの板を曲げただけと思わせておいて、縁が折り返されてるなど芸が細かい。また、アルコールストーブは絶妙な厚さで作られているんだと思いますが、軽いわりには簡単に壊れなさそうな、しっかりした強度が感じられます。
全体的に仕上げが美しく、所有欲を満たしてくれます。
トランスフォーム
「アルコールストーブ用スタンドDX」は使用方法に合わせて、(少なくとも)3パターンの形態にトランスフォームさせることができます。
トランスフォーム…厨二魂を揺さぶるパワーワード…。
標準形態
アルコールストーブを熱源として、スタンドを風防兼ゴトクとして使う、一般的な標準形態がこちら。
収納状態から上部スタンドを外し、上部スタンドを上下反転してセットし直すと、この状態になります。
上下のスタンドには、それぞれ以下の効果があると思われます。
- 上部スタンド:アルコールストーブと鍋底の間に「燃焼に適切なクリアランス」を保つ効果
- 下部スタンド:いくつも開いている空気穴から新鮮な空気を取り入れ、上昇気流を生み出して、アルコールストーブの燃焼効率を上げる効果(いわゆる煙突効果)
アルコールストーブの上に、パワープレートを乗せることもできます。
寒冷時など、火力が安定せず弱いときには、パワープレートを乗せることにより、燃焼を促進するとのこと。パワープレートが熱せられることにより、その反射熱でアルコールストーブを暖め、火力を安定させる効果が期待できる、という理解。
この形態はぜひバックカントリーとかで使ってみたいところです。
ウッドストーブ・固形燃料形態
アルコールストーブを外して、代わりにパワープレートをセットすると、なんとウッドストーブの形になります。
下部スタンドの大きな空気穴は、ウッドストーブ形態のときに小枝を入れる口だったんですね。
また、この形態の場合は、パワープレートの上に固形燃料を乗せて使うこともできるようです。
ところで、形態によって
- アルコールストーブを使うときは、上部スタンドと下部スタンドの境目くらいアルコールストーブの点火口が位置する → 熱源が真ん中にある
- ウッドストーブとして使うときは、下部スタンドの底辺に小枝などの燃料を置く → 熱源が下にある
という、熱源の高さの違い、つまり、ウッドストーブとしての高さは適正なのか? という疑問が湧くところですが、
手元の小型のチタン製ウッドストーブ(左がVARGOの「ヘキサゴンウッドストーブ」、右がEMBERLITの「FireAnt Titanium Ultralight Backpacking Stove」)と比べると、高さは「ヘキサゴンウッドストーブ」と大体同じ、「FireAnt」より少し低いくらい、という感じ。
結論としては、ウッドストーブとしては「ちょうど良い高さ」ということになると思います。
低燃費・炊飯形態
さて、標準形態では燃焼効率が良すぎて、お湯もすぐに沸かせる代わりに、アルコール燃料もすぐになくなるという問題があるようなのですが、これを解決するのがこの形。
上部スタンドにアルコールストーブをセットすることにより、点火口と鍋底の距離が近くなり、アルコールを燃焼させたくてもできない状態になります。これにより燃焼時間が伸びる(が、燃焼効率は下がる)ようになります。
EVERNEWのアルコールストーブは、燃焼効率が良い代わりに燃費が悪いという特性を持つようで、燃焼時間を伸ばすために、アルコールストーブに直接クッカーを乗せるというメーカー非推奨の使い方が知られています。上部スタンドにアルコールストーブをセットするのも、直接クッカーを乗せるほどではないけれど限りなくクッカーが点火口に近い状態と言えるので、同じ原理で燃焼時間が伸びる模様です。なお、この使い方も説明書には載っていないので、メーカー非推奨ですね。
炊飯にもちょうど良い燃焼時間になるようなので、これはどこかで実験したいところです。
スペック
重さやサイズ感など。
重さ
全体の重さは実測で91.3グラム。パッケージや説明書には86グラムと記載されてましたが、まぁ、1円玉が5枚分くらいは誤差の範囲かもしれません。
アルコールストーブを除いたスタンドとパワープレートで55.7グラム。
スタンドとパワープレートに相当する、つまり風防とゴトクに相当する「ヘキサゴンウッドストーブ」は実測で121.1グラム、「FireAnt」は92.9グラムなので、「アルコールストーブスタンド」の55.7グラムというのは超軽量と言ってイイと思います。
「Tiアルコールストーブ」の重さは35.6グラム。
trangiaの「アルコールバーナー」は実測で110.3グラムなので、こちらも超軽量と言えると思います。まぁ、trangiaの方は真鍮製で、蓋も付いているので、比較するのは酷かもしれません。
サイズ感
説明書に記載のサイズは
- 使用時:直径8.3 × 高さ9.9cm
- 収納時:直径8.3 × 高さ6.6cm
- 下部スタンド:直径8.0 × 高さ5.0cm
- 上部スタンド:直径8.3 × 高さ6.0cm
野球ボールくらいですかね。
「ヘキサゴンウッドストーブ」「FireAnt」を横に置いて、上から見たサイズ感はこんな感じ。
直径は「ヘキサゴンウッドストーブ」よりも小さく、丸い分「FireAnt」よりもコンパクトに見えます。ただし、「ヘキサゴンウッドストーブ」も「FireAnt」も折り畳んでペタンコに収納できますが、「アルコールストーブスタンドDX」は折り畳めないので、収納時はかさばるように感じるかもしれません。とは言え、アルコールストーブを中に収納できるので、トータルではどっちもどっちという気もします。
湯沸かし性能
300ml(カップヌードルに必要なお湯の量)の水を沸騰させるのに必要な時間を測ってみました。
belmontの「チタンシェラカップ深型480フォールドハンドル」に300mlのところまで水を入れ、蓋はなし。アルコールスタンド側はパワープレートなしの標準形態で、風のない屋内という条件。
結果は5分7秒。
正直なところ、思ったほど早くはないな、という感じ。この辺はtrangiaの「アルコールバーナー」とかともうちょっと比較検討してみたいところです。
雑感
当初の導入動機だった「火力への不満」は解消されたとは言えないのですが、最初にも書いたとおり、最近は火器としてほぼ「アルコールストーブスタンドDX」しか使っていないくらい気に入っています。その辺の理由をちょっと整理してみます。
火器として1セットにまとまっている
風防、ゴトク、アルコールストーブが、1つのパッケージとしてまとまっているのは大きなメリットで、さっと手に取って持っていけるフットワークの軽さを感じます。少なくとも「ヘキサゴンウッドストーブ」や「FireAnt」の場合、風防兼ゴトク「と」アルストの2つを意識しなければいけないし、別々の持ち物になってしまいます。
まぁ、でも、これは単に持ち物をどのくらい上手に管理できるかという話で、ほかの組み合わせでも工夫すれば全然問題にならないことかもしれませんが。
圧倒的な気軽さで火が使える
「ヘキサゴンウッドストーブ」や「FireAnt」は組み立てて、そこにアルコールストーブをセットするという作業が必要だし、ガスバーナーにしてもOD缶とバーナーを取り出し、バーナーをクルクルと捻って取り付ける、バーナーのゴトク部分を展開するという作業が発生します。
「アルコールストーブスタンドDX」は上部スタンドを外して、アルコールストーブを置くだけ。ほんの少しの差なのですが、 「カセットコンロのつまみをひねると火が点く」並みの楽勝感があります。
なんというか、火を点けるまでの精神的な負荷がヒジョーに低いのですよ。炎天下でもう1mmも身体動かしたくない、ジンジャーエール飲んでるだけでイイというときですら、とりあえず火を熾すか、という気にさせてくれます。
ソロキャンプでは十分な火力
お湯を沸かすスピードはイマイチかもしれませんが、
ソロキャンプで焼肉をしたり、
小さなスキレットでアヒージョを作るくらいなら余裕の火力。使ってみるまで、アルコールストーブで焼肉ができるなんて思ってもみなかったですしね。
ちなみに、この手の「山には持って行けないくらい重いフライパン」をOD缶に直接接続するシングルバーナー(いわゆる一体型のバーナー)に乗せようとすると不安定で危ないと思うのですが、上部スタンドにアルコールストーブをセットする形態なら重心が低くて、それなりに安定して使えます。
チタンならではの焼き色
チタン製品には加熱により青く変色する性質があります。この青色をチタンブルーとか言うらしいのですが、現在のアルコールストーブがこの青色ですよ。
チタン製品をいろいろ使ってきて、ここまでキレイな発色になったものはなかったと思います。たぶん、アルコールストーブは火器ゆえに安定して加熱されるのと、汚れる要素があまりないのが、このチタンブルーにつながっているんじゃないかと。
一方、スタンド側は安定して加熱されなかったり、あるいは油などの汚れがついたりして、ここまでキレイな青色ではないのですが、複雑なグラデーションを描いています。
今後、使用感が増していくはずで、今が一番キレイな状態という可能性もあるのですが、この育っていく感じがなんとも言えない所有欲を満たしてくれます。好き。
まぁ、チタン製品全般に言えることだし、ついチタン製品を買ってしまう理由でもあるのですが。
イマイチな点
一応イマイチな点もあって、各所でも同じことが語られてると思いますが、風防があまり機能してない感じ。風がある状況では炎が音を立ててなびくし、そんなときは火力も弱まる気がします。おそらく、ウッドストーブとしての使用を考えた空気穴の大きさ、多さによる影響だと思うのですが。
結局、外側に風防を使うと、「アルコールストーブスタンドDX」はゴトクとしてしか機能してないワケで、残念な気持ちにはなります。まぁ、燃焼効率をブーストしてくれてるのであれば、完全にゴトク機能だけということではないけども。
まとめ
EVERNEWの「アルコールストーブスタンドDX」。
全体的に見ればパッケージとして非常に優れたアルコールストーブセットだと言えます。軽量で、所有欲も満たしてくれるし、アルコールストーブの風防兼ゴトク、ウッドストーブ、固形燃料のゴトクとしても使える。何より、以前ならガスバーナーを使っていたシーンのほとんどをこのアルコールストーブセットが置き換えているという事実が、その有用性を物語っています。
もうちょっと比較検討したり、炊飯や低温下での使用など試してみたいことはありますが、現時点では圧倒的なお気に入りとなっています。
コメント