現在、仕事もプライベートもとにかく時間だけが溶けていき、振り返っても何も残っていないというような状況が続いている。
特に仕事の方は自分だけでなく、周りも常にスケジュールに追われ、必要なタスクを先延ばしにし、期限が過ぎてから(その先の時間を前借りして)穴埋めをする、という悪循環。
そんな状況を改善したく、噂だけは聞いていた「いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学」を読んでみた。
雑な要約
- 時間やお金などの「欠乏」により、人は「トンネリング」を起こす。欠乏は処理能力を低下させ、トンネリングは「トンネルの外」を見えなくする。
- このメカニズムにより、「欠乏」は新たな「欠乏」を生み、時間がない人はさらに時間がない状態に、お金がない人はさらにお金がない状態に陥る。
- 時間とお金という別の切り口を同じロジックで考えられることがポイント。
- (本来はゆるみやたるみを意味する)「スラック」があれば、負の連鎖が断ち切れる。
- どのように対抗するのか?
- 「欠乏」に合わせた設計にする
- 処理能力を生み出す、つまり処理能力が下がる原因を解消する。「コックピットの誤り」
- スラックを持つ。「手術室をひとつ空けておく」
- トンネル内のものを動かす。リマインダーが有効。「お偉いさんの過密なスケジュールに介入するアシスタント」
- 心がけ。
- 「心がけを必要とする行為を、できるだけ一回限りの行動に変える」
- 「問題のある一回限りの行動を、心がけを必要とするようなものに変える」
欠乏に合わせた設計の例
コックピットの誤り
第二次世界大戦中、アメリカ軍は航空機の「車輪引き上げ」事故(パイロットが着陸後にフラップではなく車輪を引っ込めてしまう)に悩まされていた。この問題はB-17とB-25に限られており、問題はパイロットではなく、車輪制御装置とフラップ制御装置が隣り合わせで、ほとんどおなじに見えるというコックピットの設計だった。
処理能力という切り口で見れば、良くない設計のコックピットが、パイロットの処理能力を下げていたのであり、この問題を解決するには、パイロットの教育ではなく、処理能力を下げているコックピットの設計を見直すという対応が良い。実際には「着陸装置のレバーの先端に小さいゴムの輪をつけた」らしい。
手術室をひとつ空けておく
セント・ジョンズ地域医療センターの手術室はつねに予約でいっぱいで、急患が出ると予定していた手術を動かざるを得ず、医師は手術をするために数時間待ったり、スタッフはしばしば予定外の残業をしていた。これは手術に対して手術室が足りないという典型的な「欠乏」。
意外な解決方法は「手術室をひとつ空けておく」というもので、足りない手術室をさらに奪うため医師からは反対されたが、結果的にはリスケジュールする手術は減り、受け入れられる手術は増え、収入も増えた。手術室の不足は、スラックの不足と言い換えられる。
学び・アクションプラン
お金がない人、時間がない人、つまり欠乏を起こしている人は個人としての処理能力が低いわけではなく、欠乏の経験が人の処理能力を奪う。この処理能力の低下についての認識が甘いため、新たな欠乏を生んでしまう。
処理能力が簡単に奪われてしまうという事実に気をつけたい。「生産性は決定的に処理能力に依存している。」
アクションプラン
- 欠乏によるトンネリングのメカニズムの理解
- 処理能力の低下を気にかけ、新たな欠乏を生まないようにする
- 欠乏の連鎖が始まってしまった場合は、適切なスラックを緩衝材として意識的に入れる
- トンネリングをうまく使えば「集中ボーナス」が得られる
キーワード
- 欠乏
- 処理能力
- 本書では、認知能力と実行制御力のこと
- トンネリング
- 人はお金や時間が欠乏すると目の前のことしか考えられなくなる
- 集中ボーナス
- 欠乏による心の占拠が生むプラスの成果
- 目標抑制
- 重要なことに集中すると、ほかの関心事についてあまり考えられなくなる
- スラック
- ジャグリング
- トレードオフ思考
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